敷地は明石海峡を介して淡路島を臨む、なだらかな丘陵地の中ほど。
石積み擁壁で造成された角地の一区画である。
木造のメーカー住宅やプレハブ系の住宅が多くを占め、やや単調な印象はあるが、
のどかで閑静な住宅地である。
西側隣地は4m近い石積み擁壁がそびえ、常に心理的な圧迫感がある。万一の時でも安心できる家であること。
機械に頼らず、自然に通風し、可能なかぎり簡素で快適に生活が営めるような家であること。
構造はコンクリート壁式構造とする。西側擁壁と北側道路とに沿って2階分の堅牢な構造体をL字形に配置し、
1階は食堂や水回り、2階は個室のエリアとする。そして上部に扇状の屋上テラスを持つ居間をL字に囲われるように
配置し、視界の開ける南東へ向けて開放させる。
プランは、居間を介して各エリアとが繋がっていく簡明なものである。食堂、座敷とは開放性の高い間仕切に留め、
季節や状況に応じた使い分けと通風に配慮した。
内外部ともに共通して、木とコンクリートの基本素材による簡明な構成にこだわり、
伝統的な木造建築にも通じる感性が醸しだされることを念じた。
そして周囲の木質系住宅の景観とは異質でありながら、違和感もない情景となることを意図している。
この住まいが建ってから早30年近くが経った。通風や防水の問題など、
若輩者にいろいろなことを学ばせていただけた、いまも大切な建物の一つである。
2013.05.31