ハイカラな港町神戸をイメージする顔の一つ、
北野界隈は多様な文化を抵抗なく受け入れ、溶け合い、独特な雰囲気を演出している。
またそれ故に、生活を営む多様な人々もこぞってこの界隈に愛着を持っている。
敷地は、この一種独特な地域の東部の一角にある。
周辺は、異人館めぐりで賑わう地区から南にはずれ、観光客もまばらで落着いた町並みである。
通りに面して、小さなエスニックレストラン達が異国情緒のスパイスの香りを漂わせている。
建物は3階建てで1,2階をテナントスペースとし、3階を住まいとする。
建設費は可能なかぎりのローコストとしたい。
南と東の道路に面した部分に植栽のスペースを確保したい。
3階の住まいに茶室と水屋が是非ほしい。
手持ちの植木鉢スペースのためのテラスがほしい。
限られた土地面積の中にいかに植栽スペースを確保し、同時に建物のボリュームを有効に確保できるかが配置計画のキーポイントであった。
メインの南道路に沿って1,2階部分は2m程建物を控え、植栽スペースとし、この部分に3階を跳ねだして住まいのエリアを拡張した。
ローコストと防火性能への解決策として、鉄骨造で外壁を波型スレートで被った。そして一部を土壁風の仕上とし、和の要素を附加した。
茶道のたしなみのあるオーナーにとり、建物が簡素なのはむしろ望むところである。僅かな空地をモウソウ竹の竹林とし、和のイメージを助長することで、種々の文化的要素を包みこむこの界隈の中で、逆に印象的な一角とする意図がオーナーとも一致した。
この建物が建って2年後に大震災に見舞われた。3階の跳ねだしの部分に被害があったが、なんとか元通りに修復した。しかし自営の骨董店は閉められ1、2階をテナントに貸されている。
モウソウ竹が繁り、設計のねらい通り北野界隈でも新鮮に映る一角となっていた。しかし竹の寿命なのかメンテナンス上の問題なのか、現在は伐採されているようである。
2013.06.03