仁川町の家
仁川町の家1

 阪神間の景勝地仁川に沿って、戦前より開発された住宅地。 ゆったりとした邸宅風の住宅が多く、緑豊かな落着いた環境。 しかし戦前に建てられた洋館や和風邸宅も震災で倒壊し、かなりの住宅が新たに建て替わった。 敷地形状は南北に長く不整形で南と北で高低差が約3mあり、石積み擁壁で造成されている。 また付近は、古い種々の石積み擁壁が、成熟した庭木と組み合わさって一つの景観を形成している。
 接道している東側道路は巾5mにも満たないが、幹線道路に通じており、交通量がかなり多い。

 既存の古い石積み擁壁にただならぬ愛着があり、できるだけ多く残したい。
 石積み擁壁と中庭を確保したプランをかなりの部分まで練り上げているので、 設計作業としては、これを肉づけしていってほしい。
 土に埋まる地階部分はコンクリート造で仕方がないが、地上部分は木造で板張の外壁としたい。
 当面、車はないが、倉庫の替わりになるのでガレージがほしい。
 天体を見るための屋上がほしい。

 この計画は震災により一時中断していた。お互いに、慌ただしさで、 じっくり腰を据えて計画に取り組む状態ではなかったが、家族が生活をするうえで希望を持つ一つの方法として、 是非計画を再開しようということになった。
 基本構想はほぼできており、敷地の大きな高低差と法的なきびしい建築制限に、 どう対応し解決していくかが残された設計作業であった。
プランは地下1階、地上2階の扱いとなる総3層の正方形の住棟を南北に2棟配置し、 その間を中庭とブリッジ状の通路で連結させ、通路の上部を屋上テラスとするものである。
 風致地区の壁面後退の定めにより、建物周囲に必要分の緑地スペースは確保できたが、 十分とはいえない。プライバシーに支障のない範囲で開放的に窓を設け、 周囲の豊かな緑を取り込み借景とさせて頂くことにした。

 道が狭く、高低差の激しい敷地での地下工事は想像以上に難しかった。 外壁に使用した不燃認定品のパイン材は上部に庇のない部分のそりがはげしく、 数年後に補修している。無垢材を使用する場合は特に必ず庇を設け、雨がかりを少なくし、 外壁通気を充分にする必要がある。
 周囲に緑が多いせいか、夏場に風通しの良い家となっている。
 また三方が土に埋まった地階の部屋は、夏冬ともけっこう快適とのこと。 しかし未だに木造部屋上の防水には問題があるとのこと。

2013.06.03