牛ノ子の家
牛ノ子の家1

 神戸須磨の北方。高取山中腹に造成された住宅団地の一角が敷地である。 小規模な住宅団地ということもあり、敷地周辺は山の緑が映え、流れる空気に自然の息吹が混ざり、 のどかさが漂う。
 敷地は西側で巾6mの道路と接道しており、この道路から高さ3mの間知ブロック擁壁で造成され、 南端がコンクリート造の掘り込みガレージとなっていた。

 建築制限のきびしい地域だが、出来るだけのボリュームがほしい。 地階は、既存ガレージとは別にもう1台分ガレージを取り、許容される広さのアトリエがほしい。
 地上部分は木造の2階建てで、木としっくい壁等の自然素材による構成としたい。建物のイメージとしては、よくわからないが英国の地方民家のような雰囲気が好みであるが・・・。
 花粉症対策のために、洗濯物干し場をサンルームのようにガラスで囲いたい。

 オーナーは敷地条件にかなった精度の高い基本構想案をもたれ、それに準じて平面計画が進められた。
 敷地の南西方向に眺望が開けており、南端の既存ガレージの上をそのまま植栽スペースとすることは、 眺望と陽光を確保する上で自明であった。
 限られた敷地を有効に利用するために、地階にあたる新設ガレージ、 玄関、アトリエは西側道路から直接アクセス出来るような計画とし、既存擁壁の大半を撤去の上、 コンクリート造の地下建造物に置き換える。
 この地下建造物はそのまま地上の木造住棟の基礎を兼ね、東側の一部をドライエリアとすることで、 地階アトリエにより多くの自然光と換気の確保を図る。
 また、西側道路に沿って床版をはね出し、人工地盤として植栽スペースとすると共に、 地階の玄関ポーチとアトリエの庇の役目を兼ねさせる。
 地上の木造部のプランは、一番快適で眺望の開ける南西方向に大きな開口を設け、1、2階の通風のために、 できるだけ吹抜を多くとり、各面に適宜な開口部を設けることとする。

 地下工事があるので事前に地質調査(ボーリング)を行なったが、工事が始まって北側、 東側隣地に沿って予想に反した硬い地層が表れ、工法変更のためにオーナーに大きな追加出費が生じ迷惑をかけた。 よりきめ細かな調査が必要だったのであるが、地中の地層を詳しく把握することには限界がある。 それに事前に硬い地層の細かな分布がわかっていれば、地階のプランは縮小され、別のものになったかもしれない。 結果的には良かったのであるが、いまだに何が正解だったか解らない。
 外観イメージで当初、英国の地方の民家風というキーワードがあったが、出来上がったのは、 板貼・土塗壁・コンクリートで構成されたオリジナルなものである。結果的に満足そうに見受けられたが、 そのギャップをオーナーはどう感じられたのか興味が残った。

2013.06.03